最高裁:性別変更「父」と認定

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性別変更後の親子関係

2004年に施行された「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」(以下「特例法」といいます。)によって,性同一性障害者の方々の性別の変更が一定の条件の下で認められるようになり,この変更後の性別を前提として民法が適用されるようになりました。

性同一性障害に苦しむ方は,以前は,戸籍が変えられず,自分の望んだとおりの結婚ができませんでしたが,この特例法によって,例えば男性への性別変更をした上で,自信が望む女性と結婚することが,法律上認められるようになったのです。

それでは,このように男性への性別変更が認められて女性と結婚した方(この方を説明の都合上「Aさん」とします。)が,この結婚相手の女性との間で,第三者の男性からの精子提供で人工授精して子どもをもうけた場合(この子どもを説明の都合上「Cさん」とします。),AさんとCさんとの法律上の父子関係は認められるのでしょうか。

民法772条によれば,妻が結婚中に妊娠し子どもを出産した場合,その子どもは夫の子と推定されます。

父子関係は母子関係ほどはっきりしないため,通常はこの規定に基づいて嫡出子としての戸籍の届出をするのですが,Aさんもこの民法772条の規定に従いCさんについて嫡出子としての戸籍の届出ができるか,というのが今回最高裁で争われた問題です。

Aさんの戸籍の記載から,Aさんが性別を変更した方であることは明らかですが,Aさんが提出した出生届は,当初,生物学的親子関係がないことが明らかであることを理由に,受理されませんでした。

しかし,生物学的な親子関係が認められなければ,法的な親子関係は一切認められない,というものではありません。

民法772条は,子どもの利益保護のため,早期に親子関係を確定するための規定です。民法は,生物学的な親子関係が認められない子どもにも法的な親子関係が認められうることについて織り込み済みなのです。

そもそも,民法772条の発想は,婚姻をもって父子関係の基礎とする考え方に由来しています。

翻っていえば,婚姻の効果の一つが,嫡出推定なのです。特例法は,一応は,性同一性障害者の性別に関してのみ規定していますが,それは,性別変更をした者に対して,「夫」としての身分は与えつつ,「父親」としての身分は与えてはならない,というような趣旨なのでしょうか。

性同一性障害者の性別変更後の婚姻を認めながら,その婚姻の効果の一つを性同一性障害者については否定するというのは,特例法を制定して性同一性障害者の人権を尊重する現代の流れと逆行するものではないでしょうか。

少なくとも,婚姻して夫婦としての実態があるカップルの間に子どもが生まれ,他にこの子どもの父親として適切な者がいないのであれば,民法772条を適用することが文言上無理でない以上,たとえそのような規定が法律の規定になくとも,一応の解決策として,この夫に子どもの父親としての地位を与えるべきであると思います。

結局,最高裁は,Cさんについても民法772条の適用を認め,Aさんの求める戸籍の訂正を認めました。

今回の最高裁の判断は,前述のとおり一応の解決策として合理性があります。

さらにいえば,立法府に対して消極的な姿勢の最高裁判所が踏み込んだ判断をした判決としても,評価できるように思います。

かつてはなかなか理解されなかった性同一性障害の方々の人権が尊重される社会になってきたこと,すなわち個人が尊重される社会になってきたことは,喜ばしいことではないでしょうか。

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